金融出身者がコンサルを経て描けるキャリアとは?

メガバンクで営業、ネット系事業会社で金融事業開発、外資系コンサルで金融機関コンサル、三社三様で金融に関わり続けている金融マン、Keijiです。

コンサルを経験すると、その後のキャリアで有利になりそうな気がする
金融からコンサルに行く人が多いからなんとなく気になっている

一昔前から、金融機関からコンサルティングファームに転職する人は多かったですが、最近はこの流れが強くなってきています。その背景は大きく2つです。

  • 金融機関は業界の専門知識が深く広く、実務未経験者がキャッチアップするよりも、実務経験者を採用した方が有用だから
  • 金融機関の人手不足に加えて、DX、AIといったデジタル化の流れが加速し、コンサルを使うニーズが高まってきているから

しかし一方で、「その後のキャリアが見えにくい」という声も少なくありません。コンサル業界の仕事は、確かに短期間で大きな成長が得られる一方で、特定の専門性を身に付けやすい仕事ではない為、「次にどのような仕事に転じればよいのか」、あるいは「何を武器にすればよいのか」、出口戦略を描くのが難しいという課題も存在します。

ここでは、金融機関、事業会社を経て外資系コンサルティングファームで働く僕が、現場で起きているコンサル後のキャリアについて詳しく解説していきます。

金融機関とコンサルのギャップについては、こちらの記事で解説していますので是非こちらもご覧ください。

目次

コンサル業界の現在地と転職市場の動向

まずは、「コンサル業界における求人の特徴と動向」と「知っておくべき現実」について説明していきます。

コンサルティング業界における求人の特徴と動向

コンサル業界の求人数は景気に大きく左右されます。そこには2つの背景があります。1つ目は当たり前ですが、コンサルティングは報酬(フィー)を払ってくれる顧客(クライアント)がいて初めて成立するものという点。2つ目はコンサルティングは企業をより良くする為のものであることが多く、企業経営にとって必要不可欠とまでは言い難い点。その結果、景気が良い時にはコンサルティングフィーを払って契約を継続してもらえますが、景気が悪くなると企業の財布の紐が固くなり、速やかにコンサルティング契約がコストカットの候補に挙がります。

コンサルティングファームにとって、抱えた従業員がコンサルティングの仕事に励み、稼いでくれていれば問題ありませんが、仕事がない従業員はただのコストです。それゆえ、コンサルティングファームは従業員の人数と稼働状況に対して極めて過敏になっています。

現在は通常の経済活動を行えている点や、人手不足によるDX・AIなどのデジタル化推進の流れが強く、コンサルティングファームの仕事は比較的多い状況です。僕が所属している金融機関向けコンサルでも「会社が抱えているコンサルティング契約」と「従業員(コンサルタント)」を比較すると圧倒的に前者が多く、人手が全く足りていません。

ただ一方で、生成AIを使えば、誰でも超優秀な頭脳を頭脳を手に入れることができるようになった影響もあり、思考力のみで勝負する「純粋なコンサルティング」の先行きは不透明です。です。そのせいか、主に海外では従業員を削減するコンサルティングファームも出てきています。

コンサルティングファームがこれから生き残っていく為には、アクセンチュアのような多領域を跨ったコンサルティングであることが1つのモデルなのかもしれません。アクセンチュアはシステム開発やマーケティング、デザイン機能を持つ部署を自社で抱え、一気通貫、全て自社で完結することを強みとしています。

知っておくべき現実

コンサル業界で知っておくべき現実も存在します。それが「極めて高い年収」「コンサル業界で身に付くスキル」です。順番に解説します。

他業界比、極めて高い年収

世間一般的に知られていると思いますが、コンサルは極めて高収入な業界・業種です。未経験からの転職であっても、20代後半で年収1,000万円を超えることは珍しくありません。マネージャークラス以上になれば、年収2,000万円以上も現実的な水準です。

一般的に、年収2000万円以上となるのは上場企業の部長レベルでも届かない会社も山ほどあります。それを30代や40代で手に入れることができる可能性があるという意味では、夢がありますが、一方でその年収水準が当たり前に感じてしまう麻痺状態に陥ることが懸念されます。

実際、僕の周りの方々も、麻痺している人ばかりです。とにかく高級な時計や家具を買ったり、通勤などの短距離移動でタクシーを使ったり、庶民の感覚とはかけ離れていく為、人は必要以上にお金を持つべきではないなと個人的には思っています(笑)

全業種は国税庁『民間給与実態統計調査』より
メガバンクとコンサル(BIG4)はOpenworkより

ちなみに、コンサル界におけるBIG4 とは、デロイトトーマツコンサルティング、PwCコンサルティング、EYストラテジー・アンド・コンサルティング、KPMGコンサルティングの4つのコンサルティングファームを指します。

コンサルティング業界で身に付くスキル

先に結論ですが、コンサルティング業界に身を置いて得られるスキルは主にロジカルシンキングドキュメンテーションスキルプレゼンテーションスキルです。これは、コンサルの仕事とは「どう考えるかどう見せるかどう伝えるか」の3点が仕事の肝だからに他なりません。

例えば、「非効率業務を改善したい」というクライアントの課題があった時、「どう考えるか」の観点で、

何が最も非効率な業務となっているか?
非効率業務を改善した時の経済的な効果はどの程度か?

などといった数多くのポイントを考えつつ、問題を構造化していきます。ここでロジカルシンキングの力が培われます。

そして考えると同時に、考えや調査結果をExcelやPowerPointの資料にまとめていきます。ここが「どう見せるか」がポイントになってきて、資料作成を繰り返すことによりドキュメンテーションスキルが伸びていきます。

最後に作った資料を社内やクライアント向けに説明をします。ここで「どう伝えるか」が肝で、プレゼンテーションスキルが試されるところです。資料を作るまでの段階で、構造化され、ロジカルに出来ていれば、資料に沿って説明するだけで伝える順番は担保されているはずですが、場数を踏むことで、うまく伝えるコツが身に付いていきます。

他にもプロジェクトによってはシステムの知識が身に付いたり、コミュニケーションスキルやプロジェクトマネジメントの知識・経験・スキルが身に付きます

一方で、業界の知識や知見については限界があります。特定業種向けのコンサルティングに所属することで、マクロ的な動向やクライアントの競合情報は手に入りますが、専門性に関しては日々第一線で実務を担っているクライアントにはどうやっても敵いません

その意味で、既に何かの領域で専門性を持っている人がコンサルティングをするのであれば良いと思いますが、専門性を持っていない人が専門性を身に付けたいと思った時に選ぶべき選択肢はコンサルではありません。そして、何らかの専門性を持たない人というのは、歳を重ねるほど転職市場での需要がなくなっていきます。40代以降で採用するとなった時には、多くは課長や部長などのポジションとしての採用で、その領域の専門性を持たない人を採用することはまずないからです。逆を言うと、あまり専門性を求められない20代の頃においてはこれらのスキルが、専門性を身に付ける土台となってくれることは期待できます。

コンサル後に描けるキャリアパス

ここまで説明してきたことを少しまとめて露骨な表現をすると、「コンサルは給料は極めて高い水準だが、コンサルで得られるスキルは必ずしも次のキャリアには直結しない」ということです。それゆえ、転職によって年収が下がることが大いにあり得ます。その、年収減少を許容できるか否かが、コンサル後のキャリアを考える上で大きなポイントになります。

年収をどうしても下げられない場合

年収減少を許容できない場合、取り得る選択肢は大きく「1つのコンサルティングファームに留まり続ける」「コンサルティングファーム業界内で転職を繰り返す」「年収が落ちない他業界に転職する」の3つです。

1つのコンサルティングファームに留まり続ける

コンサルティング業界では、一昔前ではUp or Outという習慣がありました。Up or Outとは「昇進(Up)するか、そうでなければ退社(Out)するか」という意味です。僕がいるコンサルティングファームでも役職によって1つ上の役職に昇進するまでの在籍年数が決められています。例えば、シニアコンサルタントからマネージャーに上がるまでは3年以内で上がりましょう、といった感じです。

ですが、最近ではこのUp or Outの習慣はかなり失われつつあり、年数はあくまでも目安といった流れになってきています。多くのコンサルティングファームで人手不足となっており、昇進できないからといって簡単に辞められては困るといった事情が背景にあります。

その結果、各コンサルティングファームの勤続年数も長期化傾向にあり、僕がいるファームでも10年、20年働いている人もたくさんいます。仮に昇進できなくても1つの会社に居続けるという選択肢が取れるようになってきたという証拠ではないでしょうか。

コンサルティングファーム業界内で転職を繰り返す

1つのファームで働く人が増えてきているとはいえ、同業内で転職を繰り返す人も引き続き一定数います。人手不足の影響もあり、同業内で転職すると年収があがるという現象も起きているのが実態です。

同業内の中でもBIG4の中でグルグル転職する人もいますし、総合系コンサルから戦略系コンサルに行く人もいます。総合系から戦略系に行けば年収アップが期待できるでしょうが、労働環境は更に過酷になることが予想されるので注意が必要です。そして最近では出戻りに寛容なファームも多く、一度辞めて他者を経験して戻ってくる人も一定数見てきました。

同業内でグルグル転職するというのは、年収を目的としているのであれば良いと思いますが、目的を見失った転職になってしまいがちなので、その点は気を付けるべきだと思っています。

年収が落ちない他業界に転職する

コンサルティングファームはただでさえ年収が極めて高い業界で、見劣りしない年収を出せる業界はそう多くありません。その中で最近比較的良く見る転職先が“PEファンド”です。

PEファンドとはプライベート・エクイティファンドの略称で、投資家から資金を集めて非上場企業の株式を取得し、企業価値を高めて売却する(IPOやM&Aなど)ことで利益を得ることを目的としたファンドです。VC(ベンチャーキャピタル)と似ていると感じるかもしれませんが、①VCよりも成熟企業に投資することが多い点、②投資先の経営に深く関与し成長を支援する点の2点で異なります。

コンサルの中でもM&Aに携わった経験がある人が行くことが多いところが特徴的ですが、年収は数千万円は普通にもらえる業界で、年収を落としたくない人が選ぶのも納得できます。

年収を下げることが許容できる場合

コンサルタントとして一定年数の経験を積むと、多くの人が「この先、自分はどのような人生を送りたいか?」という問いに向き合うようになります。特に30代になると、「このままコンサルタントとして生き続けるのかどうか?」を誰しもが考えます。

その中で、スタートアップやベンチャー企業への転職という選択肢を取るケースも比較的見られます。この道は、年収面ではやや or 大きく下がるケースが多いものの、裁量の大きさや、自分自身でビジネスを動かす立場となれるというコンサルタントでは得られないメリットがあります。

一方で、コンサルからの転職に限った話ではありませんが、スタートアップやベンチャーでは大手企業ほどの高給が見込めないことが多いです。それはまだ利益が出ていない状態であることが多く、従業員の獲得や囲い込みよりも、顧客獲得にお金を使いたいケースが多い為、仕方ないかもしれません。特にコンサルからの転職だと、もともとの年収が高い為、下落幅が大きくなるケースが多く、中には年収半減で転職する人もいます。

さらに現実的な話をすると、コンサル出身者が得意とする資料作成・ファシリテーションなどは、スタートアップやベンチャーではあまり重視されない場合も多くあります。きれいな資料を作ったり、きめ細やかな根回しなどのファシリテーション準備をしている暇があったら、1円でも多く稼げる売上を作る or 利益を出すことに時間を使う方が優先されるからです。

金融機関出身者がコンサルを経ることの価値

少し現実的な話に触れてきましたが、それでも金融機関で仕事をしている人にとって、コンサルを経験することは2つの利点があると考えています。1つは市場価値を高めることが期待できること。もう1つは選択肢を広げられることです。

市場価値を高める期間

金融機関で働き続けることは、金融に関する専門知識の習得に繋がります。一方コンサルで働くことは、専門性よりもスキル(ロジカルシンキング、ドキュメンテーション、プレゼンテーション)を磨くことに繋がります。これらの両方を兼ね備えた人材になることは、コンサル経験後が金融に携わる仕事であればほぼ必ずアドバンテージになり得ます。

金融機関と金融機関の取引先である中小企業の多くはデジタル化に課題を抱えているケースが多い為、コンサルでシステムに関するプロジェクトを経験できていれば、金融機関のDX系部に行くルートも生まれます。

選択肢を広げられる

一度コンサルを経験してからだと、単なるコンサル後のキャリアパスだけではなく、金融機関に戻る選択肢も生まれます。さらには金融機関だけではなく、幅広い金融関係の会社への選択肢が生まれます。例えば、最近ではFintechの流れで、金融機関以外の金融事業への進出が多く見られます。比較的話題になっているところではJR BANKなど事業会社が銀行業に参入する例が挙げられます。銀行のみならず、他の金融参入例の1つがメルカリです。元々は個人間売買のプラットフォーム機能だけでしたが、メルカードでカード事業に参入したり、あと払いなどの金融サービスも提供しています。

これらの事業会社が金融事業へ参入する際には、金融有識者を社内で抱えることが必要不可欠です。コンサルが入って支援するケースもかなり多いですが、コンサルはあくまでも一時的な補佐で、実行するのはクライアントです。有識者が1人もいない状態で新規事業を推進することは自殺行為と言っても過言ではありません。コンサルティングファームで事業開発に近いプロジェクトを経験できていると、企業が求めている人材にマッチする可能性が高まります。

このように、金融業界出身者のように「一つの業界での経験が深い」人材にとって、コンサルはキャリアの幅を広げ、自分自身の武器を再構築するための“再設計の場”になり得ます。

まとめ

  • コンサル業界の求人数は景気に大きく左右され、現在は売り手市場であるものの、経済的なネガティブイベントが発生すると瞬時に切り替わる可能性あり。また生成AIによる代替にも注視が必要。
  • コンサルティング業界は他業界比、年収が高い。一方で身に付く能力はロジカルシンキング、ドキュメンテーション、プレゼンテーション等のスキル面が多く、業界知識等の専門性は身に付きにくい。
  • コンサル業界から年収を落とさないキャリアパスとしては、「1つのコンサルティングファームに留まり続ける」、「コンサルティングファーム業界内で転職を繰り返す」、「年収が落ちない他業界に転職する(PEファンド等)」の3つが多い。
  • 年収ダウンを許容しながらスタートアップやベンチャー企業に転職するケースも最近比較的多く見られる。

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