金融マンの出向先での生存戦略|活躍に向けた2つのポイント、備えとしてやるべき3つの対策、ツラい時の3つの対処法

メガバンクで営業、ネット系事業会社で金融事業開発、外資系コンサルで金融機関コンサル、三社三様で金融に関わり続けている金融マン、Keijiです。

自分もゆくゆくは出向かと考えると、気が重くなる…
出向することが決まった(もしくは出向したばかり)で、周りと上手くやっていけるか不安…

20代、30代であれば、自分の上司が出向していくところを見て感じたり、40代であれば“たそがれ研修”を受け、「いつ自分にその時が訪れるか」不安に駆られたりすることあると思います。

僕自身、自分の上司が出向してその後の話を聞いたり、自分の担当先企業の経理・財務担当者が銀行出向者だったりという経験をしました。さらに、事業会社に勤めていた時は自分の会社に銀行からの出向者が来るという経験もしていたり、今のコンサルティングファームには出向を嫌って転職してきた人がいたりします。

そんな様々な角度から「出向」と「出向者」を見てきた僕なりの観点で、出向して冷遇されたり、ツラい思いをしないためのポイントを解説していきます。

若い人の出向においては、行ったきりの「片道切符」ではなく、出向元企業に戻る確約付きの「往復切符」も多くありますが、その場合はあまり心配する必要もないので、ここでは「片道切符」に焦点を当てていきます。

目次

金融機関はなぜ、50歳頃の従業員を出向させるのか?

金融機関における「出向」は、単なる人事異動とは大きく異なる意味合いを持ちます。出向の制度は、金融業界ならではの背景と戦略的意図のもとに設計されています。ここではその3つをご紹介します。

第一に挙げられるのが「雇用の安定と組織の新陳代謝の両立」です。金融機関は、終身雇用的な慣習が根強く残っている業界です。人員削減を避けつつも、若年層にポストや成長機会を与えるためには、一定の年齢層を外部に送り出し、ポジションに余白を作る必要があります。つまり、出向は企業内の“新陳代謝”のための仕組みでもあるのです。

第二に、「グループシナジーの最大化」も重要な要素です。大手金融グループでは、銀行・証券・信託・アセットマネジメント・リース・ベンチャー投資など多岐にわたる事業を展開しています。それぞれの子会社に本体の人材を出向させることで、グループ全体の価値観や戦略の共有が進みます。また、出向者が持つ金融業界へのガバナンス知識・意識を出向先に波及させることで、グループ全体のガバナンスレベルを引き上げる効果も期待されています。

第三に、「取引先支援」や「天下り的側面」も出向制度の背景にあります。取引先企業に人材を送り込むことで、関係性を強化し、金融面での支援を超えたパートナーシップを築く狙いがあります。ただ実態は残念ながら、出向先企業は「金融機関出身の人の知見が欲しい」というよりも「金融機関からの出向を受け入れてあげている(から融資などの取引を切ることは許さない)」という人質のように捉えている企業も多いです。

最近のメガバンクの出向事情

ただ、最近では少しずつ出向について見直す動きもあるようです。三井住友フィナンシャルグループの「52歳一律出向制度」の廃止の記事があったりしますし、各メガバンクグループはどこも50歳や55歳での「給与減額制度」を廃止する動きがあります。

一方で、これらのニュースなどはPRに過ぎず、実態が伴っていない恐れもありますので注意が必要です。実際、僕のメガバンク時代の上司などは今でも50歳前後で出向していて、60歳まで銀行に残っている人はいません。銀行の人気は一昔前と比べると落ちましたが、それでもまだ十分に大量採用できていて、さらには必要な人材を中途採用で採る様になっているので、入ってくる人は多いです。従業員数を拡大させるフェーズではなく、銀行から人を出さないとバランスがおかしくなるので、出向事情が根本的に変わる見込みはないと思っています。

ちなみに、メガバンクの中途採用数は年々増加傾向にあり、このままのペースでいくと数年後には新卒採用よりも中途採用の数の方が多くなります。特にIT・デジタル人材の即戦力が不足しているという背景もあると思いますが、退職者も増加しているという背景もあります。このあたりは地方金融機関でも似たことが起きています。

出向先で活躍する為のポイント

僕が事業会社で働いていた時、取引銀行からの出向者を何名も受け入れていて、一緒に働いてきたことがあります。人によっては生き生きと、人によっては業務内容や周りとの人間関係に深く悩みながら仕事をしていました。そこで感じたポイントをお伝えしていきます。

ポイント①:出向元や社外との人脈を活かす

まず一つ目のポイントは、「出向元や社外との人脈を活かす」ことです。出向者の強みの一つは、出向先にはないネットワークを持っていることです。ネットワークとは銀行にいる旧同僚だけではありません。グループ会社や銀行時代の取引先など、これまでの仕事で築いた人間関係や信頼関係がネットワークという資産になり得ます。

そして、出向先企業やそこで働く同僚のニーズを丁寧に汲み取り、「あの人に相談すれば情報が入る」「あの人を通じて案件が動く」といった“橋渡し役”になることが重要です。自慢話をしたり、人脈をひけらかす人は、いつの時代でも煙たがられます。

僕の経験談としても、出向者の方に出向元銀行との橋渡しや交渉役になってもらい、とても助かったことがあります。特に交渉事においては、内部事情を知っているからこそ踏み込める話もありますし、銀行員は入行年次による上下関係が強い文化なので、円滑に進めやすくなります。

ポイント②過去の肩書や実績を一度リセットし、謙虚な姿勢で取り組むこと

次に、二つ目のポイントは「過去の肩書きや実績を一度リセットし、謙虚な姿勢で取り組むこと」です。部長や支店長といった重要なポジションだった方も多くいると思います。しかし、出向までの実績や肩書自体は、出向先の職場では何の意味も持ちません。むしろ、過去に固執する姿勢は、出向先の社員との関係をギクシャクさせる原因になりかねません。

出向先で信頼を築くには、素直な姿勢が不可欠です。業務の進め方、社内のルール、人間関係など、自分にとっては新しい環境であることを自覚し、年齢や経験に関係なく、一つひとつを丁寧に受け入れることが大切です。結果として、その謙虚さが周囲の安心感や信頼につながり、徐々に役割が広がっていきます。

芸能人の高田純次さんが大事なことを言ってくれています。「歳を取ってやっちゃいけないことは”自慢話”と”昔話”と”説教”」だと。一般的に、年を取ると、相手の気持ちを考えず、過去に固執しがち、または自己顕示欲が強くなる傾向があります。そんな気持ちを自分の理性で制する為にも、この考えを心に刻んでおく必要があると思います。

人脈という“外向きの資源”と、謙虚さという“内向きの姿勢”を両立させることで、出向先での活躍の可能性は格段に広がっていきます。逆風と思える状況こそ、自らの力で追い風に変える絶好のタイミングなのです。

ちなみに、こちらの記事で、転職先での活躍に必要なポイントを解説しています。その中でダメなオッサンとイケオジの違いにも触れていますので、ぜひ一度ご覧ください。

来る出向に向け、備えとしてやるべき対策3選

金融機関で働く人にとって、50歳前後で迎える「出向」は、避けて通れないキャリアの通過点であり続けます。その時が突然訪れることも少なくありません。だからこそ、できる時に出向に備えた“地ならし”をしておくことが非常に大切です。ここでは、今からでも始められる3つの対策を紹介します。

準備策1:人脈(コネクション)を作っておく

出向先で活躍する為のポイントで解説したように、人脈(コネクション)は大きな武器になり得ます。むしろ、出向先からそれを期待されている可能性すらあります。銀行で働いているうちに人脈を作っておくことが、のちのち活きることに繋がります。

ただ、単に名刺交換を重ねたり、顔見知りを増やすだけでは意味がありません。大切なのは、“いざという時に相談できる相手”をどれだけ持っているかです。例えば、金融に関する規制や法律関係で困った時に、銀行はどのように対応しているのか相談できたり、売りたい商品/サービスがあった時に相談できるグループ会社や取引先の人がいたり。そんな関係があれば、出向先企業で働く同僚からの信頼を勝ち取ることができますし、それが自分の居場所ができることに繋がります。

準備策2:できることの幅を広げておく

出向先では、今までの銀行の知識や実績だけでは通用しない場面が多くあります。そのためにも、事前に「できることの幅」を広げておくことが非常に有効です。

中でもおすすめなのが、システムやITに関する基本的な知識を身につけておくことです。どの業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでおり、出向先でもIT部門やベンダーとのやり取りが発生することは少なくありません。「システムは苦手」と思っていても、最低限のITリテラシーかないかでシステムに関する会話の理解度がまるで違います。具体的な資格で言うと、できれば「基本情報技術者」、難しければ「ITパスポート」を取れるくらいの知識量があると役に立ちます。

加えて、プレゼン資料作成や簡単なデータ分析、業務効率化のスキル(Excel関数、PowerPoint、ChatGPTの活用など)を磨いておくと、出向先で「使える人材」として重宝されやすくなります。

準備策3:銀行の外の空気を吸う

銀行という組織の中で長年働いていると、気づかないうちに「銀行の常識」が自分の中の“当たり前”になってしまいがちです。ですが、出向先ではその常識が通用しないことも多く、逆に固い態度が「浮いてしまう」原因にもなり得ます。

出向先で活躍する為のポイントで解説したように、大事なことは「これまで獲得したものを一度リセットすること」です。そのためにも、仕事とは関係のない人と会う時間を意識的に作ることが大切です。異業種交流会、地域ボランティア、趣味の集まり、起業家との対話、学生との交流など何でもいいです。価値観の違う人と接することで、「銀行以外の物差し」を持つことができます。

多様な価値観に触れておくことは、出向先の文化に柔軟に適応するための“心のストレッチ”にもなり、精神的なゆとりにもつながります。

もしもツラいと感じた時には。その対処法3選

30年近く所属して、慣れ親しんだ組織からいきなり別の組織に移ることは、かなりのストレスが掛かります。文化の違いや業務内容のギャップ、役職や待遇の変化により、「自分の存在意義がわからない」「ここにいる意味があるのか」と感じてしまうことも少なくありません。そんなとき、ただ我慢するのではなく、いくつかの工夫によって心のバランスを保つことが大切です。ここでは、出向を“ツラい”と感じたときの対処法を3つ紹介します。

対処法1:信頼できる人に相談する

出向先では、自分の悩みや葛藤を誰にも話せず、内に溜め込んでしまう人が多くいます。しかし、一人で抱える時間が長くなるほど、視野が狭まり、自己否定感が強くなりがちです。だからこそ大切なのが、「信頼できる人に相談する」ことです。

元の職場の同僚や上司、かつての部下、家族、昔の同期など、気を許せる相手に率直に話してみるだけで、気持ちが大きく軽くなることがあります。具体的なアドバイスがなくても、話を聞いてもらうだけで救われることは本当に多いです。

僕のかつての上司は、イマイチな条件で出向先と雇用契約を結ぶことになり悩んでいたところ、信頼の置ける人から「別の会社に行くべきで、その候補は紹介する」と言われ転職しました。「信頼できる人に相談する」と言うと当たり前に感じるかもしれませんが、ツラい時は視野が狭くなって忘れてしまいがちです。

対処法2:サードプレイスを作る

ツラさを感じるときほど、「出向先=自分の全て」になってしまいがちです。そこで重要なのが、職場でも家庭でもない“第3の居場所”=サードプレイスを持つことです。

例えば、趣味のサークルや、地域のコミュニティ、オンラインの勉強会、フィットネスクラブ、読書会、ボランティア活動など、仕事とはまったく関係のない場所に顔を出してみることで、自分の世界が広がります。そこでは肩書きも過去の実績も関係なく、“ただの自分”としていられる空間になります。

特に、銀行という枠組みの中でキャリアを築いてきた人ほど、サードプレイスの存在は、気持ちのリフレッシュと価値観のバランスにおいて大きな役割を果たしてくれます。

こちらの記事でサードプレイスについて説明していますので、良ければ一度ご覧ください。

対処法3:自分の人生で何が大切なのかを見つめなおす

出向を経験することで、「自分は何のために働いているのか」「これから何を大切にしたいのか」といった根本的な問いと向き合う機会にもなります。これまで無我夢中で働いてきた人ほど、立ち止まって“人生の優先順位”を見つめ直すことが必要です。

自分で考えるのが難しいと感じる場合は、コーチングを受けるという方法もオススメです。コーチとの対話を通じて、自分でも気づいていなかった価値観や願望に光が当たり、未来志向で物事を捉え直せるようになります。「自分が大切だと思っていたものが、実は足枷になっていた」「自分の行動の原動力が何かが初めて分かった」コーチングでそんなことに気づけることもあります。

まとめ

  • 出向先で活躍する為のポイントは、①出向元や社外との人脈を活かすこと、②過去の肩書や実績を一度リセットし、謙虚な姿勢で取り組むこと。高田純次さんの教えを守ること
  • 来る出向に向け、備えとしてやるべき対策は、①人脈(コネクション)を作っておくこと、②できることの幅を広げておくこと、③銀行の外の空気を吸うこと
  • もしもツラいと感じた時の対処法は、①信頼できる人に相談すること、②サードプレイスを作ること、③自分の人生で何が大切なのかを見つめなおすこと

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