メガバンクで営業、ネット系事業会社で金融事業開発、外資系コンサルで金融機関コンサル、三社三様で金融に関わり続けている金融マン、Keijiです。
金融機関は潰しが利くと思って入ったけど、本当なのだろうか?
.早めに転職するか、もう少し働き続けた方がいいか、どっちの方が良いのだろうか?
そう感じている方いると思います。金融機関やコンサルは、入社後の出口のキャリアパスが描きやすい(潰しが利く)と言われることが多い業種です。果たして本当なのでしょうか?
ここでは、銀行から事業会社へ、事業会社からコンサルへの転職経験があり、周りの転職者もたくさん見てきた、さらには採用面接官の経験もある僕なりの観点で、金融マンは本当に転職しやすいのか、論じていきます。
転職活動の前提として押さえておくべき、就職活動との違い
結論に入る前に、転職活動の前提として押さえておくポイントが1つあります。それは「転職とは需要と供給で決まる、新卒とは違うゲーム」ということです。
新卒採用も中途採用も、人を採用するという行為は同じで、そういう意味ではどちらも需要と供給で決まるのですが、求める人物要件に大きな違い目があります。新卒採用においては、まだ社会経験のない学生を採るわけなので、そのポテンシャルを信じて採用します。どこの会社でも求める人物要件は大きく変わらない為、極端な話、ポテンシャルさえあればどこの会社でも採用されます。
一方、中途採用は違います。そもそも中途採用の求人を出す理由は基本的に「欠員補充」か「事業拡大に伴う人手不足」のどちらかで、いずれにおいても、どのポジションで、どの役職で、どのくらいの年齢で、スキル面は何を持っていて、という人物要件が細かく決まっているケースがほとんどです。
その結果、新卒採用と中途採用で大きな差が産まれます。それは「中途採用はどれだけ能力やポテンシャルがあっても、職務経歴や志望動機が完璧でも、企業が求めている人物要件(需要)にマッチしなければ採用されない」ということです。
少し極端な例を出して考えてみます。35歳、営業のリーダーとして働いていたAさんの退職に伴う欠員補充で求人を出したとします。その求人にソフトバンクの孫正義社長が応募してきた場合、採用されるでしょうか?求人票に記載しているMUST要件もWANTS要件もきっと満たしているはずです。年収が見合わないという面も含めて企業側は「すごい人だけど、求めている人物とは違うなあ」と思うはずです(孫さんごめんなさい)

つまり転職活動は、応募した人(供給)が企業の求めている人(需要)にマッチしているかどうかが、就職活動以上に大事になってくるということです。ただし、ここで1つ厄介なのが「企業が求めている人(需要)は、必ずしも求人票に書かれているものが全てではない」ということです。それは「詳細に書きすぎて門戸を狭める必要はない」という思いと、「あまり内情を大っぴらに書けない」という思いが混在している為です。
どれだけ経歴がピカピカで、就職活動の時は書類落ち知らずだったとしても、需要にマッチしていないと転職活動では書類落ちになることが平気で起こり得ます。転職活動をする際には、そのことを念頭に置いておかないと不必要に落ち込むことになります。志望企業から不採用となった際、反省することも必要ですが、企業側の求めるポイントにマッチしなかっただけと割り切ることも精神衛生上必要です。
僕自身、転職活動で一定の書類落ちを経験しています。特にコンサルへ転職する際、30代半ばでコンサル未経験だったこともあり、書類選考でそれなりに落ちました。コンサルは未経験転職が比較的叶いやすい業界ですが、応募前から当時の転職エージェントに「一定の書類落ちは覚悟してほしい」と言われていたこともあり、あまり落ち込むこともなく自然体でいられました。
金融は潰しが利くのか?若年層と中年層での違いを解説
ここからが本題です。金融人は転職しやすいのか、しにくいのか。つまり金融とは潰しが利く業界なのか。
結論としては、20代や30代前半までであれば幅広く転職しやすい、30代後半から40代前半までは転職の幅は絞られるものの、他業界と比べると転職しやすいと思っています。
もう少し細分化して説明すると、20代は未経験領域のポテンシャル採用においても優位に進められることが多いです。30代に入るとポテンシャル採用はハードルが上がりますが、30代前半であれば今の業種や職種を活かした転職がしやすいです。30代後半になってくると即戦力であることが求められるケースが大半なので、今の業種や職種そのままで転職するか、年収面で妥協をしつつ業種や職種をズラすかのどちらかが多くなります。40代後半になると、1つの金融機関で1つ2つの職種経験ではかなりツラいのが実態です。
若い金融人が転職しやすい理由
転職市場において、年齢は非常に重要なファクターの一つです。それは働く業界がどこであっても共通の転職常識です。そして金融機関で働く若手は、年齢に加えて「コミュニケーションスキル」と「社会人としての素養」という強いファクターを持ち合わせていることが多い為、より一層転職優位に働きます。
まずコミュニケーションスキルについてです。金融機関で働く人の大半が、入社してすぐ法人 or 個人の営業を経験します。そこで学生時代とはまるで違う、世の中のおじさん and おばさんと世間話やビジネス対話を経験します。相手が何を言っているか、何を思っているか、営業としての実績に繋げる為にはどうすればいいかということ等を会話しながら同時並行で考えるスキルが自然と身に付くのです。
続いて社会人としての素養です。いわゆるビジネスマナーのことですが、金融機関はコンプライアンスやマナーに厳しく社内対応、社外対応ともに入社してすぐに叩き込まれます。名刺の渡し方や電話の受け答え、指導時のメモ取りなどなど入社して1年で基本的な立ち回りを体得します。
僕が勤めていた事業会社では、銀行業務と関連性のない事業の営業でも元銀行員をたくさん採用していました。採用を担当していた営業部長と話をしたところ、コミュニケーションスキルとビジネスマナーを理由に挙げて、他業界からの採用よりも外れを避けられる傾向にある、とハッキリ言っていました。
加えて、新卒で金融機関に勤めるというのはそれだけで就職活動という関門を通過した証になります。その証があった方が優位に進められると言っても過言ではないかなとも思っています。

歳を取ると転職の幅が狭まる理由
「30代、40代でもポテンシャル採用や未経験領域の採用をしてくれてもいいじゃないか」と思う人もいるかもしれません。人生100年時代ですし、そんなへのチャレンジをする人を僕個人としては応援します。ですが、企業としては採用に前向きになれない理由が3つあります。それは「年収」、「会社への貢献年数」、「キャッチアップ」です。
まず年収についてです。いまだに日本企業の多くが年功序列型の給与体系になっていて、能力よりも年齢や勤続年数によって年収が決まる為、オジサンは能力があまりなくても年収が高い傾向にあります。これまでの経験を活かして即戦力としてバリバリ働いてくれるのであれば、採用企業としても報酬を支払う価値があると判断できますが、未経験分野へのチャレンジとなると、企業側が採用する理由がなくなるのです。
続いて会社への貢献年数です。仮に「未経験領域へのチャレンジで、年収が下がってもいい」との思いの50代のオジサンがいたとします。そんな中、応募者には「50代の未経験オジサン」と「20代の未経験お兄さん」の2人がいて、年齢以外のスペックが同じだったとした場合、どちらを採用するでしょうか?考えるまでもなく後者になるでしょう。20代の方が会社に貢献してくれる期間が長いからです。
そして最後にキャッチアップです。言うまでもなく、若いうちは新しいものや知識に対応できる柔軟性に長けています。環境の変化にもスピーディーに対応することができ、どんどん新たな学びを吸収できます。しかし、年齢を重ねると、生きてきた年数の分だけ固定観念や自分の中での常識がより強固に形成されていきます。それらは変えようと思ってもなかなか変えることが難しく、ゆえに変化についていくスピードも遅くなってしまいます。
これらの要因が組み合わさった結果、企業としては40代、50代のオジサンを採用するのであれば、「それまでの仕事を活かせる即戦力として」が前提となります。
若い金融マンが転職する際、どのような知識・経験・スキルが評価されるのか?
有利な証を持っていて、転職しやすい20代、30代前半ですが、その中でも身につけておくと評価されやすい経験やスキルとそうでもないものが分かれます。もちろん、応募する業界や職種によって何が評価されるかは大きく変わりますが、ここでは業界・職種問わず比較的共通している部分について挙げていきます。
評価されやすい経験/スキル
僕のこれまでの経験上、どこの業界・職種でも評価されやすいのは「システムに関する知識・経験・スキル」と「サービス企画開発・事業推進に関する実績や経験」の2つです。
システムに関する知識・経験・スキル
今の時代、システムが一切関わらないサービスはほとんどありません。金融領域においてはFinTechと呼ばれるFinanceとTechnologyの融合が叫ばれて久しく、システム・テクノロジーの重要性は増すばかりです。それは顧客に提供するサービスのみならず、自社で利用するシステムにおいてもDXの流れを感じることも多いと思います。
ただ、システムを使うだけでなく、ネットワークやデータベースの構造がどうなっているのか?どのような処理が行われているのか?どんな外部サービスとのAPI連携があるのか?などを理解できるような前提知識を持っている人はどのくらいいるでしょうか?これらの知識や開発フェーズの経験を求めている企業は多い一方で、持っていない金融マンも多いので、大きな差別化になります。
もし持っていない場合は、システムに関係する仕事に手を挙げて参画させてもらうか、資格を取ることをオススメします。できれば基本情報技術者、難しい場合はITパスポートを取得しておくと一定のPR材料になります。実際に自分で言語を書いてみてプログラミングに挑戦してみることもいいと思います。
サービス企画開発・事業推進に関する実績や経験
0から立ち上げ1を作り出す事業企画、開発や、1を10にする事業推進の実績や経験も評価されやすいものの1つです。金融業界に限らず、世の中には常に新しいサービスが生まれ続けていて、「サービスを作れる人」と「サービスを大きくできる人」の需要は決してなくなることはないからです。
このサービス企画開発や事業推進をしている人というのは、営業マンと比べると多くないので経験がある人も限られるとは思いますが、それゆえ経験がある人は大きな差別要因になります。
もしそんな経験がなければ、こちらも手を挙げて参画できる機会があれば積極的に活用することをオススメします。もしその機会がなければ、副業など、自分で0から1の立ち上げを作ってみることで実績や経験は作れます。必ずした方がいいものではありませんが、1つの選択肢としてありだと思います。
評価されにくい経験/スキル
一方であまり評価をされにくい経験やスキルもあります。巷の銀行員の転職本などは、そもそも書いている著者が転職を経験していなかったり、ずいぶん過去のものだったりと、現代の転職事情にそぐわない内容も見かけます。中でも、次のスキルについて、僕は懐疑的な印象を持っています。
- 金融ノウハウ
- 会計知識(決算書を読める力)
- 高い倫理観
これらは、たしかに金融以外の領域で働いている人と比べると秀でていると思います。ですが、これらの知識・ノウハウを求めている会社、仕事はあまり見かけません。僕がいた事業会社には銀行出身の営業マンが数多くいましたが、彼らは全く金融と関係のない仕事をして、決算書を読むこともなく営業活動をしていましたし、優秀な成果を上げている人もいました。
そもそも、評価される/されないというのは他者との比較によって決まる要素が多分にあります。つまり、どういった会社に転職の応募を出すかによって評価される/されないは変わります。若い人の転職の場合、業種や職種を大きく変えることも良くあります。比較される対象が非金融機関に勤める人が高く、その中で「コミュニケーションスキル」や「社会人としての素養」がある為、優位に働きます。
一方、金融ノウハウ、会計知識を求める業務に応募してくる人は大半が金融機関で勤める人になります。その中のPRで「金融ノウハウや会計知識があります!」と言っても、「他の応募者もみんな、その知識あるよ」と思われて即終了です。高い倫理観については、金融機関の不祥事頻発により、金融機関で働く人の倫理観が高いというイメージは既に崩壊しています。
まとめ
- 就職活動と転職活動は全く別のゲーム。転職活動は求めている人物要件がピンポイントの為、学歴があっても能力が高くても、企業が求めている人物要件にマッチしないと採用されない
- 20代や30代前半までであれば幅広く転職しやすい、30代後半から40代前半までは転職の幅は絞られるものの、他業界と比べると転職しやすい。特に若い金融人はコミュニケーションスキル、社会人としての素養が優位に働きやすい
- さらに、システム開発に関する知識・経験・スキルやサービス企画開発・事業推進に関する実績や経験があると一層強い
関連記事

.jpg)